<ハイブリッド経済(5)>フェスに見る商業とコミューンの融合
僕は音楽はできませんが、いろんな意味で常に注目しています。
ひとつは著作権はじめネット化するビジネスの影響を最も先に受けて、最も先に解決を試みなければならない業界だからです。
もうひとつはこれだけ長い世界史の中で宗教の影響が少ない時代はないと思いますが、それと似た影響力を持っているのが音楽だと思うからです。
音楽業界は現在ハイブリッド経済を予想する上で一番良いケーススタディになると思っています。
ウッドストックフェスティバルとは何だったのか
ウッドストックは1969年にニューヨークで開催されたカウンターカルチャーを代表するイベントです。全米から40万人の人が訪れました。40万人っていうどういうことかというと、カオスだったStarlight Runが6700人だったので、これが60個同じ場所で同時開催されているということです。
Starlight Run 2014 Christmas Running - YouTube
ヒッピー文化の一つの特異点です。半数が無料でなだれ込んできたそうですが、それでも約20万人がチケットを購入して入場しています。商業的には大成功です。何がこれを実現したんでしょうか。
これを理解する為にこの本を読んでいました。
この方はロックの方ですが、フェスの歴史からAKB Exile以降の流れも汲んでいて非常にわかりやすかったです。
簡単に言うと農業コミューンをやれなかった、やらなかった人たちが音楽を触媒にしてアンチベトナム戦争を唱えた、それが商業ベースにもうまく乗ったということです。
ヒッピー文化とコミューンとテクノロジー
ヒッピー文化は、きったない人たちというイメージかもしれませんが、わかりやすくいうとアンチベトナム戦争です。正義のない戦争、徴兵に対する運動として「LOVE&PEACE」を掲げて動いていた人たちです。
アンチキリスト教の勢いで東洋の宗教の流れを汲んで、ドラッグなどで覚醒・悟りをし、自然へ回帰しようという人たちでした。農業を中心にコミューンをつくり、カルトなどもたくさん生まれ社会問題にもなっていました。
と、書くとなんだか危ない人たちのようですがジョン・レノン、ニール・ヤング、ジョージ・ハリスンなど一般に影響力の大きい人たちも多くいます。忌野清志郎もそうですね。日本語だとフーテン。寅さんですね。
ヒッピー文化の最後の残り香を受けたのはスティーブ・ジョブズ。インドに行ったり禅にはまったり瞑想したり、ドラッグもやっていましたね。彼のスタンフォード大学でのスピーチで有名な「Stay Hungry, Stay Foolish」はヒッピー代表のスチュアート・ブランドのWhole Earth Catalogから来ています(これはアンチテクノロジーのヒッピーの流れを変えて今のシリコンバレーの基礎にもなっているホーム・ブリュー・コンピュータクラブ、WIREDへと繋がっていきますがそれはまた違う時に)。
スティーブ・ジョブス スタンフォード大学卒業式辞 日本語字幕版 - YouTube
Whole Earth Catalog Stay Hungry Stay Foolish
(ちなみにこの地球見たことありません?iPhoneの背景にそっくりですね。)
スチュアート・ブランド以前は特にアンチテクノロジー、農業回帰が主流でした。農業を中心とした小さな村へ還ろうという話です。
でも、みんながみんなそんな極端なことはできない。でもコミューンのような体験をしたい。それの受け皿になったのがウッドストック・フェスティバルだったと言えます。
フェスは臨時小規模コミューンの受け皿
フェスに行ったことのある人は実感があるかもしれませんが、フェスはただ音楽を楽しむ場ではありません。むしろテントを張って野営して、7−8人くらいの仲間で騒いで、遠くの会場で音楽が鳴っているという非日常の世界観を楽しむ人のほうが多いんじゃないでしょうか?
アンチベトナム戦争、LOVE&PEACEという思想を中心に置き、音楽を囲み、その世界観の中で自分の人生を再発見するというのがフェスだったようです。
これはその精神がエチオピア難民救済に移ったあとにはライブ・エイドとして。日本では環境問題を中心に置いてMr.Childrenの桜井さんが活躍するap bank fesなどとして後に続いていきます。
これのハイブリッド感はこういうことだと思います。
商業経済・・・ライブチケット
共有経済・・・同じ思想の普及、共感、仲間との絆を深める、社会的なアクションにつなげる
グレイトフル・デッドのハイブリッド経済
これは、収益をライブのみに絞った1965年に結成したグレイトフル・デッドが個別のビジネスモデルとして先んじて成功させています。その内容はコピーライターの神・糸井重里さんが絶賛するこの本で詳細に語られています。
- 作者: デイヴィッド・ミーアマン・スコット,ブライアン・ハリガン,糸井重里,渡辺由佳里
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2011/12/08
- メディア: 単行本
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彼らはCDを無料で配布する、ネットでも配信するなどしてコンテンツとしての音楽を無料開放しています。しかし、デッドヘッズというコアなファンを大量に生み出し結果的にビートルズやストーンズよりも商業的に成功することになりました。
ツアーのキャラバンは、ファンとバンドがいっしょに作り上げる「真のコミュニティ」であり、熱狂的なファンである「デッドヘッズ」たちには、サイコーに素晴らしい音楽によって一体感が生まれた。ライブにおける体験は「カウンターカルチャー」そのものであり、多くのファンは「巡礼」として捉えていた。
CDを2枚以上買うのはAKBのファン以外あまりいません。が、ライブには何度も来ます。自分で交通費をかけて。ツアーにもいっしょについてきます。グッズも出れば買います。白と黒のタオルに赤が出れば、たとえ嫌々でも買ってしまいます。彼らは仲間を呼びます。伝染させます。仲間にもグッズを買わせます。モデルとしては
無料・・・思想→コンテンツ
有料・・・体験→コミュニティ→思想の強化
ある意味では恐ろしいんですが、とにかくこういう仕組みで動いています。
一方で完全に商業ベースとしてフジロックやサマソニなどが大規模になっていきます。が、僕はこれは完全に商業経済だと思っています。これはこれであり。楽しいし。
ただ、共有経済の爆発的な利益(あえて利益としますが)を生み出すには、全然足りないと思います。何かの社会的正義に対する感情を爆発させる精神が必要です。音楽はそういうのと非常に相性がいいようです。ある意味では宗教です。ていうか完全に宗教ですね。
逆にいうと僕らは無宗教と思いながらも、「数学的に正しい」「統計的に正しい」「Mr.Childrenが言ってるから正しい」「スティーブ・ジョブズが言ってるから正しい」「お母さんが言ってるから正しい」と様々な自分にとって説得力のある神を信仰しているんでしょうね。
音楽が共有経済の力をどうやって得てきたか
ここはあくまで経済の話なので経済的にいうと、共有経済の爆発力を得るには、
・多くの人が信じられる社会的正義
・彼らの思いの中心になれる触媒(農業・音楽・その他)
・オープンアクセスなコンテンツ
が必要なんじゃないかなと思います。
さらにテクノロジー、特にSNSによって広い意味でのコミューンの作られ方が変わってきています。次回はその辺りについて書きます。